慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書とは
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書は、婚約破棄や内縁解消、男女関係を清算する時など、慰謝料を支払う場合に作成する契約書です。
慰謝料とは、身体や自由、名誉、貞操などが不法に侵害された時、「ひどい仕打ちで傷ついた」という精神的苦痛に対して支払われるお金です。
当事者の話し合い(示談)で「慰謝料を払います」と約束しても、相手が不誠実で支払ってくれないおそれもあります。
ただでさえ傷ついた心に、さらに追い打ちをかけることになります。
- ・受けた心の傷に対して、ちゃんと償ってほしい
- ・慰謝料をくれると言われたが、きちんともらえるか不安
- ・払ってもらえなかった時は、差押えをして回収したい
このような心配事やトラブルが将来おこらないように、あらかじめ合意した内容を公正証書にしておくと安心です。
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書の記載事項
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書には、次のような内容を記載します。
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事実関係について
なぜ慰謝料を払うことになったのかを記載します。
(例:乙は甲に対し、乙が甲の夫丙と交際し不貞行為を行ったことを認め、これを謝罪する。) -
慰謝料について
慰謝料の金額、支払期日、支払方法を記載します。
(例:乙は甲に対し、平成○年○月○日から平成○年○月○日まで毎月月末かぎり、
金○万円ずつを、甲指定の銀行口座に送金して支払うこととする。) -
遅延損害金について
決められた日に払わなかった場合のペナルティについて記載します。
(例:遅延損害金は年率14.6%とする。) -
期限前でもすぐに支払わなければならない場合について(期限の利益の喪失について)
「決められた期限までは支払わなくてよい」という「期限の利益」がなくなり、すぐに全額一括払いしなければならないケースについて記載します。
(例:乙は、以下の場合には、甲からの通知催告がなくても乙は当然に期限の利益を失い、直ちに全額を支払う。
(1)1回でも期限に支払わないとき。
(2)乙が甲に通知なくして住所を変更したとき。
(3)その他本契約の他条項に違反したとき。) -
清算について
「今後これ以上請求しません」という、解決したことへの合意を記載します。
(例:甲及び乙は、本件はこの合意によって一切解決したことを確認し、
甲は本契約に定める以外に、金銭その他の請求をしないこととする。) -
強制執行について
「もし支払わなかった場合には、強制執行(差押え)を受けます」という、支払う側の承諾を記載します。
(例:乙は、本契約による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。)
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書作成の注意点
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書を作成する際には、次のような点に注意が必要です。
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トラブルの内容を特定し、終結すること
お互いに問題点や妥協点を話し合い、その結果、「慰謝料を支払う」ことで紛争を解決するのが、この公正証書の目的です。
そのため、「どういう原因で慰謝料を払うのか」をはっきりさせておく必要があります。
また、後になって蒸し返され、いつまでも金銭等の請求を受けないように、「今後はこの件に関して一切請求を行わない」という旨を記載します。
ただし、この「合意を交わした後」に不貞行為を行った場合などには、被害者はあらためて慰謝料を請求することができます。 -
婚約破棄について
婚約破棄による慰謝料は、「破棄を言い出した側」ではなく、「破棄に至った原因を作った側」が支払うものです。
「将来結婚しよう」と約束し、両親への紹介や結納、式場やハネムーンの予約といった「婚約の事実」があったのに、相手が不貞行為をしたり、暴力をふるって破棄せざるを得なかった場合や、正当な理由がないのに一方的に破棄された場合に、相手に請求できます。 -
内縁解消について
内縁は、婚姻届を出していないだけで、本人たちは「夫婦」として共同生活を送っており、「周りからも夫婦とみられている」という、いわゆる「事実婚」です。
内縁解消の場合も、「解消を言い出した側」ではなく、「解消に至った原因を作った側」が、慰謝料を支払います。
相手が不貞行為をしたり、暴力をふるった場合や、正当な理由がないのに一方的に解消された場合に、相手に請求できます。内縁は、「法律上の夫婦」ではありませんが、その実態は夫婦そのものなので、 内縁解消の際には、離婚と同じように財産分与や年金分割を受けることができます。
また、父親が子どもを認知していた場合には、養育費の支払も請求できます。
「離婚給付契約公正証書」についても、あわせてご参照下さい。 -
不倫慰謝料について
夫婦にはお互い貞操を守る義務があります。
自分の配偶者が不貞行為を行った(別の相手と肉体関係を持った)場合に、その配偶者と不倫相手に対し、慰謝料を請求することができます。
ただし、次のような場合には、不倫相手には請求できません。・結婚しているとは知らなかった(知りようがなかった)とき
・別居中など、既に夫婦関係が破綻していたとき
・「不倫相手を知って3年以上経っている」または「20年以上前の話」
(慰謝料請求の消滅時効にかかっている場合)また、不倫慰謝料は、離婚しなくても請求することができます。
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強制執行受諾文言を入れておくこと
「約束通りに支払わなかった時には、強制執行を受けても異存ありません」という文言を入れておくことで、裁判をしなくてもすぐに差押えることができます。
この文言がないと、公正証書を作っても強制執行できなくなってしまいます。 -
期限の利益の喪失について決めておくこと
自分に対する慰謝料の支払日はずっと先で、その分の支払はまだしなくてもいい(期限の利益がある)けれど、今まさに相手が破産しそうで、期日に払ってもらえる見込みがない…
そのような場合などには、期限の利益を失うことを決めておくことで、支払期日前でも「残金を一括で払ってくれ」と請求することができます。
逆に決めてなければ、請求することもできず、払ってもらえなくなるおそれがあります。 -
遅延損害金について決めておくこと
支払が遅れた場合に、プラスして払う損害賠償金です。
遅延損害金の年率は、利息制限法の上限を超えることはできません。
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書作成の必要書類等
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書を作成する際には、次のようなものが必要となります。
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当事者に必要なもの
・『運転免許証等(パスポートや写真入りの住基カード)+認印』
・『印鑑証明書+実印』
上記のうちいずれかが必要となります。 -
代理人を依頼した場合
・『委任状(代理人との契約内容を記し、委任者の実印を押したもの)+印鑑証明書』
・代理人自身の『運転免許証等+認印』、もしくは『印鑑証明書+実印』
上記すべてが必要となります。 -
保証人をつけた場合
・保証人の『運転免許証等(パスポートや写真入りの住基カード)+認印』
・保証人の『印鑑証明書+実印』
上記のうちいずれかが必要となります。 -
示談書や和解書など
当事者間で交わした『示談書』や『和解書』などを、公正証書作成の際の資料とします。
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公証人手数料
公正証書の作成の際には、その目的価額に応じて、公証人に手数料を支払わなければなりません。
慰謝料の支払いに伴う合意契約公正証書の場合の目的価額は、『慰謝料の額』です。
公証人手数料については、こちらをご覧下さい。