離婚給付契約公正証書
離婚給付契約公正証書とは
離婚給付契約公正証書は、離婚の際に決めた約束事を記す契約書です。
離婚そのものは、夫と妻の双方が「離婚したい」と合意して、離婚届を提出することで成立します。
しかし、離婚したい夫婦の約9割が、話し合いで離婚(協議離婚)する中で、子どもの養育費や財産分与などについてきちんと決めないまま、とりあえず離婚届を提出し、後からトラブルになることもあります。
- ・子どもの養育費を、きちんと払い続けてほしい
- ・結婚中に築いた財産を、ちゃんと分割してほしい
- ・払ってもらえなかった時は、差押えをして回収したい
離婚した後は、お互いに別々の人生を歩むことになり、「あらためて話し合い」をするのも難しくなります。
このような心配事やトラブルが将来おこらないように、あらかじめ協議内容を公正証書にしておくと安心です。
離婚給付契約公正証書の記載事項
離婚給付契約公正証書には、次のような内容を記載します。
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親権について
未成年の子どもの親権をどちらが持つのかを記載します。
(例:甲(夫)乙(妻)間の長男○(丙)と長女△(丁)の親権者は乙とし、乙は丙と丁を成人まで監護養育する。) -
養育費について
養育費の金額、支払期日、支払方法を記載します。
(例:甲は乙に対し、平成○年○月○日から丙と丁が成人に達する月まで、毎月月末までに、
子一人あたり月々○万円を、乙指定の銀行口座に送金して支払うこととする。) -
面接交渉権について
親権者でない親と子どもの面会について記載します。
(例:甲は、丙及び乙と面接交渉することができる。面接の回数・日時場所及び方法等は、
丙及び丁の情緒安定に十分配慮し、両者誠実に協議して定めることとする。) -
財産分与について
婚姻中に夫婦で築いた財産の清算・分配について記載します。
(例:甲は乙に対し、本件離婚の財産分与として、下記の不動産を譲渡し、平成○年○月○日までに
所有権移転登記を行うものとする。
(1)○○マンション○号室及びその敷地権) -
慰謝料について
慰謝料を支払う場合、その金額、支払期日、支払方法を記載します。
(例:甲は乙に対し、慰謝料として、金○万円を、平成○年○月○日までに、乙指定の銀行口座に
送金して支払うこととする。) -
年金分割について
夫婦の年金を分割する場合、その分割割合を記載します。
(例:甲及び乙は厚生労働大臣に対し、厚生年金分割の対象期間に係る被保険者期間の
標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を50パーセントとする旨合意した。) -
強制執行について
「もし支払わなかった場合には、強制執行(差押え)を受けます」という、支払う側の承諾を記載します。
(例:甲は、本契約による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。)
離婚給付契約公正証書作成の注意点
離婚給付契約公正証書を作成する際には、次のような点に注意が必要です。
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養育費について
養育費とは、衣食住や教育費など、子どもの生活にかかる費用です。
長期にわたってかかる費用なので、金額や支払方法を明記しておきます。
進学や病気・事故などで突発的にお金が必要になった時どうするのかも、あわせて決めておくと安心です。
養育費は、生活の中でその都度発生する費用のため、「支払わなかった場合には残額一括払い(期限の利益の喪失)」はできません。 -
財産分与について
婚姻中に夫婦で購入したマイホームや自動車などの財産を、どう分配するのかを決めておきます。
基本的に、財産分与でもらったものには贈与税はかかりませんが、常識的に見てあまりに多すぎるときなどには、贈与税がかかる場合もあります。
マイホームなどの不動産を相手に譲ったとき、その不動産価格が購入時よりも値上がりしていた場合には、譲渡所得税がかかることがあります。
また、「いつ所有権移転登記をするのか」「移転費用を誰が払うのか」を明記しておくことも重要です。 -
慰謝料について
慰謝料は、不倫やDVなど、「離婚の原因を作った」側が支払う損害賠償金です。
支払う場合には、金額・支払期日・支払方法などを明記しておきます。
慰謝料は「期限の利益の喪失(一回でも支払が遅れたら残金一括払い)」について決めておくことができます。 -
年金分割について
婚姻期間中に、夫が厚生年金(一般企業)や共済年金(公務員)に加入し、妻が夫の扶養に入っていた場合、平成20年4月1日以降の分については、分割する割合が2分の1ずつであれば、一方からの請求で手続できます。
それ以前の分は、夫婦そろって年金事務所で手続しなければなりませんが、離婚給付公正証書に年金分割についての規定を入れておけば、単独でも年金分割の手続をすることができます。 -
強制執行受諾文言を入れておくこと
「約束通りに支払わなかった時には、強制執行を受けても異存ありません」という文言を入れておくことで、裁判をしなくてもすぐに差押えることができます。
この文言がないと、公正証書を作っても強制執行できなくなってしまいます。
養育費は、「子どもの生活を守る」ための費用のため、給料の手取り2分の1まで差し押さえることができます。
慰謝料の場合は、普通の債権と同じく、給料の手取り4分の1までになります。
離婚給付契約公正証書作成の必要書類等
離婚給付契約公正証書を作成する際には、次のようなものが必要となります。
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夫と妻に必要なもの
・『運転免許証等(パスポートや写真入りの住基カード)+認印』
・『印鑑証明書+実印』
上記のうちいずれかが必要となります。 -
夫や妻が代理人を依頼した場合
・『委任状(代理人との契約内容を記し、委任者の実印を押したもの)+印鑑証明書』
・代理人自身の『運転免許証等+認印』、もしくは『印鑑証明書+実印』
上記すべてが必要となります。 -
保証人をつけた場合
・保証人の『運転免許証等(パスポートや写真入りの住基カード)+認印』
・保証人の『印鑑証明書+実印』
上記のうちいずれかが必要となります。 -
財産分与がある場合
・分与される不動産の『登記事項証明書』または『固定資産評価証明書(納税通知書)』
・ 不動産以外→『預金通帳』『保険証券』『車検証』など -
年金分割をする場合
・『年金分割のための情報通知書』
厚生年金の場合は社会保険事務所に、共済年金の場合は共済組合に、「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると受け取れます。
この請求の際には、「年金手帳(または基礎年金番号通知書)」及び、婚姻期間がわかる「夫婦の戸籍謄本(または離婚届受理証明書)」が必要になります。 -
離婚協議書
夫婦間で話し合った親権や養育費などの内容を記した『離婚協議書』などを、公正証書作成の際の資料とします。
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公証人手数料
公正証書の作成の際には、その目的価額に応じて、公証人に手数料を支払わなければなりません。
離婚給付契約公正証書の場合の目的価額は、『慰謝料+財産分与の額』『年金分割(500万円として算定)』『最大10年分の養育費の合計額』などです。
それぞれの目的価額に応じた手数料を算定し、その合計額が公正証書全体の手数料になります。
公証人手数料については、こちらをご覧下さい。