尊厳死宣言公正証書
尊厳死宣言公正証書とは
尊厳死宣言公正証書は、「無理な延命はやめて、自然な死を迎えたい」という、尊厳死を希望することを表明した文書です。
「できるだけ長生きしたい」というのは、人間の本能的な願いです。
しかし、回復の見込みがない末期の状態になったとき、延命治療が結果的に、患者を長く苦しめてしまう場合もあります。
そのため、「人間が人間らしく」尊厳を保って生を全うしたいと願う人が増えてきました。
しかし、日本にはまだ、尊厳死に関する法律がありません。
そこで、尊厳死を希望するときには、まだ元気なうちに、「死期が迫った時には、延命をやめてほしい」と、公証人の前で宣言し、「尊厳死を望む宣言があった」という事実を、公正証書として記録してもらいます。
- ・できるだけ平穏に、自然な死を迎えたい
- ・「ただ生きているだけ」の延命治療は受けたくない
- ・尊厳を保って生きることを、家族や医師に伝えておきたい。
「尊厳死」とは、「死ぬ瞬間」のことではなく、「死ぬまでの間」から「死んでからの時間」を含めた一連の流れです。
本人だけが「平穏」な死を迎えるのではなく、その家族も共に「平穏」な気持ちで、死の準備をするのが「尊厳死」です。
死んだ後の希望は「遺言」で残しておきますが、生きている間の希望は「尊厳死宣言(リビング・ウィル)」で表明します。
「リビング・ウィル」を信頼性の高い公正証書で作成することで、家族や医師たちとのトラブルを避け、「平穏な死」の準備をしておくことができます。
尊厳死宣言公正証書の記載事項
尊厳死宣言公正証書には、次のような内容を記載します。
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「尊厳死をしたい」という意思表明
「痛みを和らげる治療以外の延命治療はやめてほしい」という希望を表明します。
(例:私は、私の傷病が不治であり、かつ死期が迫っている場合に備え、家族と医療に携わる方々に、
以下のことを要望します。
(1)私の傷病が現代医学では不治で死期が迫っていると診断された場合には、死期を延ばすためだけの
延命措置は一切行わないでください。
(2)ただし、死に至るまでの苦痛を和らげるための緩和措置は、最大限お願いします。
この緩和措置の副作用等で私の死期が早まってもかまいません。) -
尊厳死を望む理由について
「どうして尊厳死をしたいのか」を記載します。
(例:このような措置を私が望むのは、私の父が末期がんで苦しみぬいて死んだのを目の当たりにしたからです。
また、ただ生きるためだけに管に繋がれることも、私の倫理観に反するので、尊厳死をしたいと希望するに
至りました。) -
家族の同意について
家族も尊厳死について同意していることを記載します。
(例:この証書の作成にあたっては、以下の家族の了承を得ています。
妻 ○○ 昭和○年○月○日生
子 △△ 昭和△年△月△日生) -
医療関係者に対する免責について
家族や医師たちが法的責任を問われないよう、警察などへのお願いを記載します。
(例:私が尊厳死を迎えるためになされた一切の行為の責任は、私にあります。
警察・検察関係者におかれましては、私の要望を忠実に果たしてくださった方々を、犯罪捜査や刑事訴追の対象と
しないよう、切にお願い申し上げます。) -
宣言の有効性について
心身ともに健康であった時にこの宣言をしたこと、また、自分で撤回しない限り、この宣言は有効である旨を記載します。
(例:この宣言は、私の心身が完全に健全である時にしたものです。
したがって、私の心身が完全に健全である時に私自身が撤回しない限り、その効力は持続します。)
尊厳死宣言公正証書作成の注意点
尊厳死宣言公正証書を作成する際には、次のような点に注意が必要です。
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「尊厳死」について
「尊厳死」は、「延命するためだけの措置はやめて、安らかに死を迎える」という、「死期の引き延ばしをやめる」ことが目的です。
「苦痛から解放されるために、薬物などを利用して死期を早める」という、「安楽死」とは違います。
現在の日本の法律では、どのような方式であれ、「安楽死」は認められていません。 -
尊厳死を希望する理由を明示しておくこと
家族にとって、「死を受け入れる」ことは、とても難しいことです。
「どうして尊厳死を望むのか」という理由をはっきり示しておくことで、家族や医師たちを説得する一助になります。 -
家族の同意を得ておくこと
尊厳死宣言をしていたとしても、家族が延命措置を望めば、医師は家族の希望を無視してまで、延命措置をやめるのは難しくなります。
いざ「その時」になって家族が反対し、医師とトラブルにならないように、また、医師に安心して延命措置をやめてもらえるよう、あらかじめ家族としっかり話し合い、同意を得ておきましょう。 -
医療関係者への免責を記載しておくこと
医師には、患者の命を守り、最大限治療をする義務があります。
回復の可能性がゼロではない患者の治療をやめることは、医師の倫理に反します。
また、いくら患者の希望とはいえ、生きている人の命を縮める行為をすると、自殺ほう助罪や殺人罪などに問われる可能性もあります。
医療関係者に対して、警察や検察が犯罪捜査をしたり、刑事訴追しないよう、また、民事責任(損害賠償請求)も問わないでほしい旨を記載します。 -
「尊厳死宣言」について
「尊厳死宣言」は、法律で認められた制度ではないので、「任意後見契約 」や「遺言 」の中に入れることはできません。
また、医療に関しては医師による裁量も認められているため、宣言をしていれば必ず尊厳死できるわけでもありません。
(「死期が迫っている」とはどういう状態か、何が「延命治療」にあたるのかなどは、 一概に言えることではなく、医師の医学的な判断に頼らざるを得ません。)
しかし、医療現場では9割以上が「尊厳死宣言」を容認しているため 、元気なうちにあらかじめ「尊厳死宣言公正証書」を担当医師に提示し、理解を求めておくことが必要です。
尊厳死宣言公正証書作成の必要書類等
尊厳死宣言公正証書を作成する際には、次のようなものが必要となります。
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本人と家族に必要なもの
・『運転免許証等(パスポートや写真入りの住基カード)+認印』
・『印鑑証明書+実印』
上記のうちいずれかが必要となります。 -
「家族の同意」の確認に必要なもの
・「家族の記載がある」本人の『戸籍謄本』
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代理人を依頼した場合
・『委任状(代理人との契約内容を記し、委任者の実印を押したもの)+印鑑証明書』
・代理人自身の『運転免許証等+認印』、もしくは『印鑑証明書+実印』
上記すべてが必要となります。 -
公証人手数料
公正証書の作成の際には、公証人に手数料を支払わなければなりません。
尊厳死宣言公正証書は、「公証人が直接見聞きした内容を公正証書にする」という、「事実実験公正証書」のひとつです。
手数料は、「見聞きと証書作成にかかった時間」が『1時間までごとに11,000円』です。
休日や午後7時以降に行った場合には、手数料が50%加算されます。
また、公証人に自宅や病院へ来てもらって作成する場合にも、手数料が50%加算され、日当(一日1万円。4時間以上は2万円)と交通費も支払います。